砂漠の雷
               
                  2012年10月7日発売予定
          オフセット(オンデマンド印刷・表紙フルカラー)・A5版56P
                    本体価格600円


              R18……エルレーン×マリクです、また直接的な表現はありませんが
                        他キャラとの絡みを連想させる表現があります、ご注意下さい
                        詳細は下記にて


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※発売後に購入者様限定公開SSを用意させて頂きます。
公開スタートしました、ページ下よりお入り下さい(2013/02/5更新)



  エルレーンは塔の部屋から出ると、そっと鍵を閉めた。
  それはまるで宝物を隠す者のように。
  ここにはたくさんの本と、賢い猫――そして……。



『暗黒竜』から『新・紋章の謎』のエキストラ〜10章までのお話です。
微妙に『砂漠の風』と『砂漠のみる夢』(と購入者限定公開のオマケSS)の続きテイストですが、未読の方でも問題ない内容になっております。
エキストラMAPの囁きガーネフ(?)の辺りから、アリティアとアカネイアが微妙な状況&ウェンデル先生不在の際にマリクを幽閉した時のお話です。
あの一連の出来事を『監禁』ではなく『幽閉』という公式のややマイルドな表記に妄想が暴走した内容です(爆)。色々抱えて追い込まれている系エルレーンが、もしかしたら一番幸せだったかもしれない時のお話……だと思う。あとせっかく閉じ込めたので、あんなことやそんなことを色々やっております。せっかくなので(笑)。
個人的趣味で猫に話しかけるエルレーンとか、間違ったツンデレなエルレーンとか、天然砲が暴発しまくりのマリクとかそんな話ばっかりです。


※最大限の注意※直接的表現は一切ありませんが、一部エル×マリ以外のカプ(マルス王子絡み)の話が絡みます。苦手な方はスルー推奨。


☆以下、プレビュー(本編)になります。いろんなところから抜粋しております。


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(何が仲間だ――誰もがここでは他者を蹴落として高みを目指すのに……)
そんな風にひとりでいることに小さな鳴き声と共に、足元に温かなイキモノの気配を感じる。視線を落とすと、緑色の目と合った。猫だ――。
「……ここは書架ではないぞ」
 エルレーンのそんな言葉に対して、抗議するように「にゃあ」と小さく鳴いた。
 足元に擦り寄ってくる猫は、まだ大人というには仔猫のやんちゃさを残したような顔立ちをしていた。灰色の毛に若草色の目をした、可愛らしい顔立ちの猫である。
 数多くの貴重な書物を有するカダインでは、書物をネズミの被害から護るため意図的に猫が飼われている。役に立てば良いと考えているエルレーンは、特別彼らを可愛がることも手なずけることもしなかったが、どういう訳か猫の方はエルレーンに寄ってくることが多い。人間から見ればどちらかといえば近寄り難い雰囲気の彼に対し、動物はその限りではなかったようだ。
 若草色の目をした猫は、エルレーンの膝が気に入ったらしく、どっかりと身体を預けると居眠りを始める。
「……図々しい奴だ」
 文句は言いつつもエルレーンはそのまま猫の好きなようにさせていた。
 けれど布越しに感じる猫の体温に、また触れ合った時のことを思い出させられる。目の色がマリクの髪の色と同じだとか、人の話を聞いているのかと言いたくなるところがまたマリクみたいだとか――。
「マリク――」
 戯れに呼びかけてみた。すると猫は目を開けて「にゃあ」と返事をする。
 そんな風に反応されてしまうと、エルレーンの方が困惑させられる。間違った名前を覚えられては、後で面倒なことになりそうだ。
 本来の名前は何と言うのか、また眠ろうとする猫を抱えあげて首輪を確認する。ここにいる猫は全て首輪に名札のタグを付けていた。タグに書かれていた名前は『ヴァン』……古い言葉で『風』という意味だ。
 偶然だろうが、風の魔道士と呼ばれるマリクをまた思い出させられ、エルレーンは苦笑する。誰が名付けたか知らないが、不思議な縁があるものだ、と。
「ヴァン?」
 返事をしない。
「……マリク」
「にゃあ」
 猫は機嫌よさげに返事をする。
「……参ったな……」
 間違った名前を覚えさせてしまった罪悪感。最も、他の者がずっと「ヴァン」と呼んでいればその内なおるだろう。若草色の目をした猫はエルレーンの困惑を余所に、再び身体を丸めると彼の膝の上で居眠りを始めていた。

 穏やかな日――。
 それが、つかの間の平和であることを知るには、それほどの時は必要でなかった。

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「マリク、今からお前の身はカダインで預かることにする。アリティアへの帰還はもちろん、俺の許可がなければこのカダインから出ることは許さん」
「どうして……君は僕の意見を訊くための機会をくれたのではないのか?」
「今さら何を言っても他の連中が納得すると思うか? 本来なら逆賊アリティアの刺客として問答無用で厳罰に処されても文句は言えないところだ。だが、仮にもカダインの最高司祭であるウェンデル先生の弟子として、一応は命の保証をしてやるということだ。無論、この先の戦況次第ではその限りではないかもしれないがな」
 マリクにとって自分の身の安全など目の前の問題に比べれば些細なことだった。
 暗黒戦争で人々が争い、時には望まない戦いをしなければならないこともあった。それでも世界の平和を願っていた気持ちに偽りはない。それはマリクが力になり、護りたいと願ったマルス王子も同じはずだ。
 それを誰であっても信じてもらえないのは、あの日々の全てを否定されるようなもの。マルス王子の家臣であり、友であるマリクにとって、そんな誤解は自分の命を賭けてでも解きたいものであった。
「エルレーン、話を聞いてくれ。これは何かの間違いだ! きっとアカネイアとの間に何か誤解があったはず……僕はマルス王子の元に行って話をしてみたい。アカネイアにはカダイン出身の魔道士や司祭もいる。だからどうか――」
 マリクはカダインの責任者たる兄弟子に対して故郷の無実を訴える。だがエルレーンはその想いを一蹴する。
「これ以上話し合う必要はない」
「信じてくれ! アリティアはアカネイアに敵意を抱いたりはしていない!」
「何を信じろというのだ? マリク、俺は昔から自分しか信じていない。ここでは力のある者のみが優れた叡智を得ることの出来る場所。お前はカダインの者ではないのに『エクスカリバー』を手に入れた。そのカダインの至宝をアリティアの戦いのために使ったのは誰だと思っている? その事実を前にカダインをアリティアのために利用したと他の者が思わないと言うのか?」
「……エルレーン、僕は――」
「大人しくしていろ。お前の処遇はその内決めてやる」
「待ってくれ、エルレーン……っあ!」
 腕を掴み、取り縋ろうとするマリク。けれどエルレーンはその手を力任せに振り払う。何の身構えもしていなかったマリクは床に倒れ伏した。
「今のお前に何が出来る? 魔道の力がなければただの非力な坊やのくせに」
 冷たく言い放ち、エルレーンは重たい部屋の扉を閉じ、鍵を掛けた。
 魔力を使うことができない場所――それは魔道士にとって全ての力を奪われたも同然。
 重たい扉は開くことがない。窓には幾重にも鉄の格子が美しい幾何学模様を描いて外の世界と隔絶している。例え窓が開いたとしても、高い塔の上ではどうすることもできない。
「……マルス王子、どうかご無事で――」
 遠く故郷を追われている主君を想い、マリクはただ祈ることしかできなかった。


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 マリクを幽閉している部屋を訪れると、誰も話し相手などいないはずなのに、楽しげに笑っているマリクの声がした。
 訝しがりながらも部屋を開けると、マリクの膝の上に猫がどっかりと胡坐をかいて、彼のローブに付いている紐にじゃれついていた。この部屋が解放されている時には自由に出入りしていたが、今は外から鍵をかけており、勝手に入ることはできない。
 おそらく食事を差し入れた時に潜り込んだのだろう。
 猫と遊んでいたマリクは、エルレーンが塔を昇ってくる音に気づかなかったようだ。扉が開いたことでようやく彼の来訪を知り、猫と戯れる自分の姿を見て呆れ顔をしたエルレーンにあたふたしていた。
「あ、エルレーン……これは、その……」
 虜囚の身で猫と遊んでいたというのは体裁の悪いもの。自分に怒りが向かうのは構わないが、猫が罰せられないかマリクは心配になった。だが――。
「勝手に入ってきたんだろう。さすがに猫の出入りぐらいでどうこう言うつもりはない」
「そっか……ありがとう」
「勘違いするな。そんなことで騒いだら俺の方がおかしく思われるからだ」
 咎められないとわかってホッとしたのか、マリクは猫のことについてあれこれと楽しそうに話題を振ってきた。
「この仔、ヴァンって言うらしいね。だけど名前を呼んでも返事してくれないんだ。エルレーンみたいだね」
「どこがだ」
「僕がアリティアから帰ってきた時、呼んだのに返事してくれなかったじゃないか。ちょっと寂しかったよ」
 あの時は〃あんなこと〃をした自分に、いつもと変わらず話しかけてくるマリクが鬱陶しいと思って無視していた。けれどマリクはどんな時でも同じように自分を兄弟子として慕ってくれていた。
 今、このように閉じ込められ、理不尽な行為を強いても変わらない。ほんの少し変わったことがあるとすれば、いつも微笑んでいるみたいな顔がどこか寂しげなものになったこと。だから、ここに幽閉されてから、こんな風に笑ってしゃべっているマリクを見たのは今日が初めてだった。
 ともあれ、猫と遊んだぐらいで咎めるつもりはないが、弟子同士で慣れ合うつもりはない。あくまでもマリクは逆賊アリティアの仲間である嫌疑から幽閉されているのだ。
 呆れてエルレーンは溜息を吐く。
「あのなぁ、マリク」
 説教のひとつでもしようと呼びかけた途端、エルレーンの予期せぬことが起きた。それは――。
『ニャア』
「何? え、あれ? この仔、返事した?」
 エルレーンはハッとした。その猫は自分の名前を〃マリク〃だと勘違いしている。原因は他でもない、自分がそう呼んでしまったからだ。もちろんそんなことはマリク自身が知るはずもないが、内心エルレーンは気が気ではなかった。
 マリクはそんなエルレーンの気など知らず、ようやく返事をした猫に興味を示している。
「えっと……〃マリク〃?」
『ニャア』
「そっか――僕と同じ名前でいいんだね。うん、じゃあそれで。あっ!」
 マリクがそう呼びかけた途端、気まぐれな猫は彼の膝から飛び降り、エルレーンの足元にやってきてゴロゴロと喉を鳴らしながら身を擦りつけていた。
「エルレーンが好きみたいだね、その仔。いいなぁ……」
「ふん、邪魔なだけだ」
 口では迷惑らしいことを言いながらも、エルレーンは足にまとわりついた猫に気遣いながら腰を下ろす。そして手にした大量の本の内、数冊をマリクに差し出す。
「本を持ってきてやった。好きに読めばいい」
「ありがとう――今日はこの仔も来てくれて、嬉しいよ」
「だから勘違いするな。お前がアリティアの密偵ではないと証明できたらカダインのために役立ってもらわなければならん。だからただ遊ばせておくつもりはない。知識を得て、魔道を磨け」
「……」
 エルレーンの言葉にマリクは無言で本を見つめる。
 マリクが魔道を学ぶのは、故郷アリティアの……引いてはマルス王子のため。カダインの役に立ちたいからではない。この状況で、もしカダインとアリティアが戦うことになった場合、マリクはどうするのだろうか――ずっと考えていた疑問だ。
今ここで問いかけたい気持ちにかられたが、想像した通り「どんなに間違っていてもアリティアと共に行く」と言われたら、マリクを処罰しなければならない……カダインの責任者として。
それ故、エルレーンは本来の疑問から少しだけ逸れた質問を投げかける。
「アリティアのことが気になるか?」
「うん――今、どうなっているんだろう。ここにいる僕は何も知らない……知る権利もないんだよね」
「そういうことだ。俺も教えてやる訳にはいかない」
 問わなければ、そして答えなければこの時間はもう少しだけ続く。ただの逃げだとわかっていても、エルレーンは今、その答えがほしくなかった。
 マリクはそれをどう感じたのか、少し困った顔をして微笑む。
「困らせてごめん。そして本、ありがとう。ありがたく読ませてもらうよ」



極限状態(主にエルレーンが)の中での幸せなお話……の予定。


おまけSS
風の痕、砂の欠片(13/01/30より更新中)

※裏ページに飛びます、また一部、本誌の購入者様限定ページになります

                            
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